多汗症治療

発汗異常症には多汗症と無汗症があります。

原発性掌蹠、腋窩多汗症についてはその重症度に応じた治療をおこなっています。
治療内容については、塩化アルミニウム外用、イオントフォレーシス、BOTOX(腋窩多汗症:保険診療)など、診療しながら選択していきます。
その他、無汗症などの診療も行っております。

多汗症について

手掌、足底に温熱や精神的な負荷、またそれらによらずに大量の発汗がおこり、日常生活に支障をきたす状態になる状態を多汗症と呼ばれています。どの程度の汗をかくと多汗症と呼べるかは個人差があり、局所がしっとりしている、汗が水滴としてみえる、したたり落ちる、等の発汗量の表現が多いようです。多汗症は全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部のみが発汗量が増加する局所多汗症に分類されています。局所多汗症で原因が明らかでないものを原発性局所多汗症と定義しており、受診する患者の大部分がこの疾患です。発症頻度については、例えば原発性掌蹠多汗症の最近の本邦の疫学調査においてその発症率は5.3%とされており、稀ではない疾患であると考えられています。

診断のポイントは?

掌蹠多汗症の症状は掌蹠(てのひら、足裏)に全体的な発汗過多がみられ、汗がしたたり落ちてくるほどの多汗の人もいます(図1)。手足は湿っていて冷たく、紫紅色になることもあります。多汗症のため湿った手足は真菌、ウイルス感染を伴いやすく足白癬、疣贅などがよく認められます。

多汗症

図1

腋窩多汗症ではシャツなどが腋窩(ワキの下)だけ濡れてしまいシミになります(図2)

多汗症の分類には、特発性である一次性の多汗症と、原因となる基礎疾患がある二次性の多汗症にわけられます。特発性多汗症の発症部位は、手掌(てのひら)、足底、腋窩(ワキの下)、顔面などです。

腋窩多汗症

図2

診断基準

下記の該当が2項目以上であること(2004年, JAAD※)

  • 発症年齢が25歳以下であること
  • 両側対称性であること
  • 睡眠中は発汗が止まっていること
  • 家族歴があること
  • 週1回以上の多汗のエピソードがあること
  • 日常生活に支障をきたす程の汗であること

※JOURNAL OF THE AMERICAN ACADEMY OF DERMATOLOGY

また問診では、以下のような事例が聴取されます。
社会生活、学校生活、または対人関係での問題として、下例のように、非常に日常生活のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が損なわれています。

  • 美容師の手が濡れてカットできない
  • パソコン、携帯など電気機器がこわれる
  • 試験の際答案用紙がやぶれる
  • 握手ができない

検査方法について

換気カプセルを用いた発汗量測定装置であるスキノスSMN-1000、SKD2000(西澤電機計器製作所)などで発汗量を測定する。2mg/cm2/min以上を重症とします。

(発汗量測定をご希望の場合、あらかじめお電話などでご予約をお願いします。)

スキノスSMN-1000、SKD2000(西澤電機計器製作所)

治療について

治療方法 長所 短所
外用療法(塩化アルミニウム溶液、エクロックゲル) 安価・簡単 効果弱い、皮膚炎
イオントフォトレーシス 安価・簡単 手間がかかる、治療機器が必要
ボツリヌス毒素局注 効果が高い3~6ヶ月有効 痛い、高価、年齢制限、副作用

また、上記の治療法ではコントロール不十分な例には、ETS(胸部交換神経遮断術)などがあり、紹介もしています。

塩化アルミニウム溶液

塩化アルミニウムの費用が安いこと、手軽に自宅で行える利点を生かしたODT(閉鎖密閉療法)で、単純塗布と比べ、重症例にも対応できます。
(受診後、医師の指示書により近隣の薬局にて購入が可能です。
薬剤の価格目安:100ml 2255円)

注意:
刺激皮膚炎などがおこることがあります。
必ず説明を受けて行ってください。

<施工方法>

手順1:
就寝前に行います。
手順2:
素手に布手袋をはめます。
手順3:
塩化アルミニウム溶液を掌側に染み込ませます。
手順4:
布手袋の上から、ゴム手袋をはめて就寝します。
(夜間密封療法)
翌日は起床後、石鹸で手を洗います。

抗コリン外用薬(エクロックゲル)

2020年11月に抗コリン薬(ソフピロニウム臭化物)の外用薬が発売されました。保険適用される日本初の原発性腋窩多汗症に対する外用薬で、今後は原発性腋窩多汗症(わきの多汗症)の治療の第一選択肢になると考えられています。ソフピロニウム臭化物は、抗コリン作用を有するグリコピロニウム臭化物と類似した化学構造のM3受容体リガンドでアセチルコリンがM3受容体に結合するのをブロックします。

外用方法は薬の容器から塗布器(アプリケーター)を取り外し、そこへ抗コリン外用薬を滴下して腋に塗り広げれば、腋以外の皮膚に薬が付くことを予防できます。抗コリン薬は、目に付くと緑内障、散瞳する恐れがあるため、手で触れないことが非常に重要です。

抗コリン外用薬(エクロックゲル)

イオントフォレーシス

直流電流を通電させることによって電気分解した水素イオンの作用である機序が考えられています。医療用の高出力のものを用いると週1~2回の通院で約8回程度行うと効果がみられ、中等症から重症に有効であります。

ペースメーカー装着者や妊婦など禁忌以外は広く使用可能で、塩化アルミニウム溶液に皮膚炎を起こす症例に用いたり、外用と併用することで相乗効果も得られます。

通院できない患者様に対しては、現在のところスイスからSaalio®(サーリオ)という医療機器を個人輸入して自宅で行っていただく方法をとっています。(使い方等の助言は当院で行っています。)

医療用イオントフォレーシス装置

医療用イオントフォレーシス装置

家庭用イオントフォレーシス器:Saalio

家庭用イオントフォレーシス器:Saalio®

https://saalio.jp

ボトックス®(ボツリヌス毒素局注)

上記方法でコントロールが悪い場合、適切な診察の上でボトックス®による治療を行っています。

ボトックス®とはボツリヌス毒素製剤であり、当院ではGSK社の製品を使用しています。国内では、原発性腋窩多汗症、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、等が保険適応となっていますが、保険適応外の治療は当院では行っておりません。

使用前には十分な説明の上、同意(インフォームドコンセント)が必須となります。日帰り手術であり、麻酔は外科用麻酔薬による浸潤麻酔と冷却を併用します。

ボトックス®(ボツリヌス毒素局注)

無汗症について

運動、入浴、サウナなど発汗に適切な刺激を受けるか発汗を促す環境下にありながら発汗量が正常より少ない場合を乏汗症、発汗を完全に欠く場合を無汗症といいます。汗の分泌減少、欠如、あるいは汗排出障害などが起因します。

体温調節に重要な発汗が障害されるため、運動や暑熱環境でうつ熱を起こし、全身のほてり感、体温上昇、脱力感、疲労感、顔面紅潮、悪心・嘔吐、頭痛、めまい、動悸などがみられ、熱中症に至ることもあります。

無汗症はどのような原因がありますか?

無汗症、減汗症の原因はさまざまです。先天性である時には、顔貌、歯芽異常などの合併がある遺伝性無汗性外胚葉形成不全症、痛みがなく頻回の骨折の既往、虫歯などが合併する無痛無汗症、糖脂質が全身の早期に沈着する先天性疾患でありびまん性被角血管腫、脳血管障害、腎不全、四肢痛、二次性肥大型心筋症などを合併するFabry病などがあります。後天性ではシェーグレン症候群などエクリン汗腺の異常を伴う自己免疫性疾患、交感神経の異常、皮膚疾患、代謝疾患そして薬剤による続発性の発汗障害もあります。さらに、原因が不明な特発性の無汗症もあります。特発性には全身性の特発性後天性全身性無汗症と分節性に無汗症になる分節型無汗症に分類されます。

検査方法について

換気カプセルを用いた発汗量測定装置であるスキノスSMN-1000、SKD2000(西澤電機計器製作所)などで発汗量を測定します。

特発性後天性全身性無汗症の治療はどうするのでしょうか?

特発性後天性全身性無汗症は夏に良くなり冬に悪くなることはよく知られています。運動、半身浴などで汗腺トレーニングをすると自然緩解することもあります。また、ヒスタミンはH1受容体を介して汗腺分泌細胞からの汗の分泌を阻害し、発汗活動を抑制することもよく知られています。抗ヒスタミン薬の倍量投与などを試みられることがあります。重症で熱中症を起こすか生活に支障をきたすなど治療が必要なときに副腎皮質ステロイド薬の全身投与されることもあります。ステロイド・パルス療法と呼ばれる治療法はメチルプレドニゾロン(500~1000mg/日)の3日間点滴静注を1~2クール行うことです。入院治療が必要ですので無汗症の専門の大学にご紹介します。

横関博雄